人として

そこは校則のない小学校
あるのは只一つ「人の嫌がることはしない」

あるとき一人の子どもが転入してきた
問題を多く持つ子だった
ネグレクトというのだろうか
いつも汚く 酷い匂いをさせていた

同級生はみんな傍に近づかず いつもひとりだった
先生は言った 「臭かったら臭いからきれいにして、と言えばいいのに」

そうか 遠慮することはないんだな
そう気付いた同級生たちはそれぞれに
頭洗いなよ、きれいにしようぜ
と声をかけた

その子はみんなの言うとおり ときには校庭の水道で
身体を洗い そうやってみんなと打ち解けていった

中学校に上がるとき、親の事情で
みんなと同じ学校に行くことが出来なかった

先生は心配したけれどその子は
「今度の学校の若い先生は僕のことをわかってくれて
全力で守ると言ってくれた」
だから大丈夫 そういった

しかし、それから1年後
その子が不登校になったと風の便りに聞いた
生活指導の教師に暴力を振るわれたらしい

気に掛けていた先生は、矢も楯もたまらず様子を見に行った
自宅を訪ねると
その子は意外なほどしっかりしていた

親は相変わらずのほったらかしだが
自分の事はじぶんでできる 粗末ではあるが清潔な暮らしぶりであった

話を聞いた
その生活指導教師は、靴下の色が白ではないとこの子を責めた
この子は「これは白の靴下です」と答えた、それが怒りを買ったらしい
しかし、たしかに靴下は白なのだ
長く履き古し洗濯は全てその子が自分で行う
漂白剤などあるはずもない
黄ばみ、黒ずんだところでなんの不思議があるだろうか

殴られ引きずられたという酷い傷跡が残っていた
なんと言うことを・・・怒りがこみ上げる

不登校になるのも無理はない 大人の責任だ
そう伝えようとしたとき その子は言った

ちがうよ そうじゃない
僕を殴ったのは年上の偉い先生
僕を守ると言ってくれた先生はとても若い先生で
僕を庇うことが出来なかったんだ

きっと僕が学校へ行けば その先生は苦しむ
守るから と言った言葉がその先生を傷つける
僕の存在が あの優しい先生を苦しめるくらいなら
学校なんて行く必要ない そう思ったんだ

今、その子は自力で公立の高校に通いながら
心を開いてくれたあの小学校でボランティアをしている

僅か数年
育ち盛りに受ける正しい教育は
ひとの心をこれほど豊かに育てるのだ

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心の糸

池田綾子さんの歌で最も好きな曲の一つですが今回は歌の話ではなく

最近はほとんど茨木のり子さんの作品に没頭しています、もう数編は暗唱できるほどです

知命

他のひとがやってきて
この小包の紐 どうしたら
ほどけるのかしら と言う

他のひとがやってきては
こんがらがった糸の束 なんとかしてよ
と言う

鋏で切れいと進言するが
肯(がえん)じない
仕方なく手伝う もそもそと

生きてるよしみに
こういうのが生きてるってことの
おおよそか それにしてもあんまりな

まきこまれ
ふりまわされ
くたびれはてて

ある日 卒然と悟らされる
もしかしたら たぶんそう
沢山のやさしい手が添えられたのだ

一人で処理してきたと思っている
わたくしのいくつかの結節点にも

今日までそれと気付かせぬほどのさりげなさで

紐や糸になぞらえていますが、様々な厄介事と解釈すれば納得できます

知命・・とは、論語で言うところの天命を知る、数え年の五〇歳の事だそうで

この詩は茨木のり子さんの51歳の作です、但し、この作品が詠うのは、文字通り生きていくことの意味を知る、人は一人ではなく必ず誰かに支えられている、そして誰かを支えている、そんな命の仕組みを詠っているのです

これを説教がましく言われれば反発もありそうですが、こういう言葉で語られると心にストンと落ちます

これは寧ろ若い人達に読んで欲しい詩です

心の片隅にこの詩があるだけで、いざこざ、もめ事の大半が片付いてしまいそうな気がします

 

 

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書を読む日

最近また図書館通いしています

昨日3冊借りまして

雑学の「日本の伝統の正体」日本古来の伝統というものがかなりいい加減なものであるというのを明かしています。嘘で固めた歴史など全く価値がないことに気付くべきです

娯楽小説、大沢在昌「極悪専用」トンデモ入居者専用のトンデモ賃貸マンション管理人助手の命懸けの成長物語、ギャグですが何やら現実にありそうなお話がオモシロ怖ろしい

後藤正治「清冽」、詩人、茨木のり子さんの心洗われるようなエピソード集、全てが美しい、彼女の最後の便りは今年最高の感動です、出来ればご存命中にお会いしたかった、叶わぬ思いです

「言葉が離陸の瞬間を待っていないものは詩とは言えません、滑走路をずるずる滑って終わる、そんな詩とも言えない詩がどれ程多いことでしょう」

身に沁みる言葉です、言葉を高く羽ばたかせる、それがその人間の力量なのです、早くに気付いていれば、もう少しマシな生き方もあったと悔やみます

私は長く「言葉では無く心だ」と信じていました

しかし、心は言葉によって生きることも死ぬことも有るのです

心と言葉が響き合う、そんな生き方に気付けなかった、愚かでした

言葉を磨き、心を磨く

遅まきながら私の生涯の目標が出来たようです

言葉を探す旅、この日から始まります

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